大判例

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大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)2618号 判決

原告

湯浅商事株式会社

(旧商号) 湯浅金物株式会社

代表者

湯浅佑一

訴訟代理人

平正博

被告

更生会社定行精機株式会社

更生管財人

後藤三郎

訴訟代理人

大西裕子

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告会社

被告は原告に対し、別紙物件目録記載の各機械を引き渡せ。

被告は原告に対し、昭和五〇年六月一日から別紙物件目録記載の各機械の引渡しずみまで一か月金三四五万四、六〇〇円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決と仮執行の宣言。

二  被告

主文同旨の判決。〈以下、事実省略〉

理由

一更生会社が昭和五〇年三月三一日以降を支払日とする本件各機械の割賦売買契約に基づく割賦金の支払いをしなかつたので、原告会社は、これを理由として同年四月一二日、更生会社に対し右契約を解除する旨の意思表示をしたこと、同年三月二四日に債務弁済禁止の保全処分があつたこと、以上のことは、当事者間に争いがない。

二会社更生法三九条に基づく保全処分の効力について

(一)  債務弁済禁止の保全処分は、会社財産の散逸の防止、手形不渡処分の回避、債権者間の公平の確保、弁済のための会社財産の処分の回避などのために更生裁判所によつて発出されるもので、これにより、更生会社は、任意弁済をしないという不作為義務が課せられる。したがつて、更生会社が任意に弁済しても、その弁済は、第三者が悪意のときは無効になり、この保全処分に違反して任意に支払つた会社取締役は、善良な管理者の義務に反したとして(商法二六六条一項五号)、会社に対して損害賠償の責に任じ、更生手続開始後の更生管財人により、その責任を追及されることになる。ただし、この保全処分が債権者の取立の訴訟を禁止するものでないことは、いうまでもない。

そうすると、この保全処分は、更生会社に任意の弁済を禁止するものであるから、この保全処分に従う限り、更生会社が債権者に対し履行期間内の債務の弁済のないことを、当然是認しているものとしなければならない。そうでなければ、この保全処分は無意味に帰し、前記目的を達成することができなくなる。それにも拘らず、この債務を弁済しなかつたことを目して、更生会社の債権者に対する債務不履行とし、債権者がこれを理由に、契約を解除することができるとするのは、不合理であり、解除権が発生するとの結論に到底賛成することはできない。

保全処分は、その名宛人が債務者であつて債権者ではなく、債権者の解除権の発生、行使を直接制限するものではないとしても、名宛人である債務者が、保全処分によつて任意の弁済をしなかつたこと自体を、債務不履行とするわけにはいかないのである。残代金債権のある債権者は、更生債権として届出でることによつてその満足を受けるしかない。所有権留保付売買の売主は、残代金債権を後述するとおり更生担保権として届出でることによつて、その更生手続内で支払いを受けるほかはない。

(二)  この視点に立つて本件をみると、更生会社が、原告会社主張の債務を履行しなかつたのは、更生裁判所の債務弁済禁止の保全処分に従つたことになるのであるから、更生会社には、原告会社主張の債務不履行はなかつたことに帰着し、原告会社が、このことを理由にした本件各機械の割賦売買契約を解除する旨の意思表示は無効である。

三所有権留保付売買の売主の目的物の取戻権について

(一)  本件各機械の割賦売買契約並びに使用貸借契約により、代金完済まで所有権が原告会社に留保されていることは、当事者間に争いがない。

(二)  ところで、このような所有権留保売買の買主に対し、会社更生手続が開始された場合、留保売主の所有権留保特約上の権利について、留保売主に完全な所有権があり、更生手続が開始され、代金が支払われない以上、売買契約を解除すると否とを問わず、所有権に基づき目的物を取り戻しうる(会社更生法六二条)との見解がある。しかし、当裁判所は、次の理由によつて、この見解を採用しない。

(1) 留保売主の有する権利は、目的物に対する完全な所有権ではなく、留保買主の物権的期待権すなわち代金完済によつて完全な所有権を取得することのできる停止条件付所有権によつて制約され、機能的には、担保権である。

(2) 留保買主のこの停止条件付所有権が、更生手続の開始により、更生管財人の管理に服し、すでに差押類似の効果(会社更生法五三条、五六条、五七条)が生じているのであるから、これを無視して、留保売主の目的物の取戻権を認めるわけにはいかない。

(3) 譲渡担保権者は、会社更生手続上、目的物の取戻権がない(最判昭和四一年四月二八日民集二〇巻四号九〇〇頁参照)。これとの権衡上、留保売主の目的物の取戻権を否定し、譲渡担保権者と留保売主とを会社更生手続上同一に取り扱うのが、公正、衡平の理念(会社更生法一九九条、二二八条、二三三条、二三四条)に合致する。

(三) 以上の次第で、留保売主は、会社更生手続上は、その取戻権(会社更生法六二条)が否定され、更生担保権者として取り扱われるのであり、会社更生法一〇三条の規定は適用されない。

(四)  この視点に立つて本件をみると、原告会社には、本件各機械の所有権を主張してその取戻しを求めることができない筋合である(なお、この取戻しについて、適法な契約解除を必要とするかどうかの点は、しばらくおく)。

四むすび

原告会社がした本件各機械の割賦売買契約の解除は無効であるし、原告会社には、会社更生手続上の取戻権がない以上、原告会社の本件各機械の返還請求はその余の点を判断するまでもなく失当として棄却を免れない。原告会社にそのような返還請求が認められない以上、更生会社の返還遅滞を原因とする損害金の請求も失当として棄却を免れない。そこで、訴訟費用は敗訴の当事者に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(古崎慶長 井関正裕 小佐田潔)

物件目録

一 ロータリー研削盤ICB―二四〇型一台

株式会社市川製作所製

製造番号二四〇一六八

〈以下、省略〉

割賦売買明細

一 契約年月日 昭和四七年六月一六日

売買代金 金三六〇万円

物件の名称 株式会社市川製作所製、ロータリー研削盤ICB240型(二四〇一六八)一台

引渡場所 兵庫県加西市鴨谷町

支払条件 昭和四七年一一月から同五〇年一〇月まで毎月二五日に金一〇万円宛弁済

〈以下、省略〉

損害金明細〈省略〉

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